ウインチ(巻き上げ機)取扱要領

こちらではウインチの正しい取扱要領を取上げました。
不適切な取扱が原因で不慮の事故が起きることがあります。
ウインチは正しく取扱いましょう。
目次
1)ウインチ(巻き上げ機)の据付
2)ウインチ 運転前の心得
3)ウインチ 運転時の注意点
4)ウインチ 運転後の心得
5)ウインチの点検・補修

1)ウインチの据付

はじめに
ウインチ(巻き上げ機)は機種・用途ともに多種多様であり、据付方法は機種ごとに、また用途ごとに異なります。したがって、据付にあたっては、機種ごとに示している据付要領書などを参考に、適切な据付方法を十分検討しなければなりません。検討後は据付作業手順書を作成し、この手順書によって、指揮者の指揮のもとに作業を行うことが必要です。

(1) 据付場所
ウインチを据付ける場所の選定にあたって、特に注意することは次のとおりです。

ア)地盤のしっかりした場所を選ぶこと。
基礎にかかわる主なトラブルの一つとして、地盤の弱いところに据付けたため、ウインチが傾斜し、運転中にワイヤロープが乱巻になってしまったり、軸受けなどに偏荷重がかかり、機械的に起こすことがあります。やむを得ず、地盤の弱いところにウインチを据付ける場合は、基礎部分等を十分に補強することが必要です。

イ)湿気や塵埃の少ない場所を選ぶこと。
湿度の高い場所に据付けると、ウインチの電気設備の絶縁抵抗値が低下し漏電の原因になります。塵埃の多い場所に据付けると、ウインチの電気系統が接触不良の原因になります。また、歯車や軸受部分の異常磨耗などの原因になります。やむを得ず、そのような場所に据付ける場合は、防湿・防塵のために小屋掛けするなどの適切な処置をすることが必要です。

ウ)見通しのよい場所を選ぶこと
ウインチの運転時に、巻上げ物に対して見通しのよい場所をえらぶことは、作業状況が把握できるので、より適切な運転ができます。やむを得ず、見通しの悪い場所で運転しなければならない場合は、合図・信号の方法や緊急停止の方法などを十分検討し、誤動作にないように注意する必要があります。

エ)適当な広さが確保できる場所を選ぶこと。
ウインチを運転するときや、点検、修理をするときなどは、作業のしやすい適当な広さが確保できる場所を選ぶ必要があります。

オ)所定のフリートアングルが確保できる場所を選ぶこと。
ワイヤロープの乱巻きによる異常磨耗やつぶれなどを防止するため、フリートアングルは溝付ドラムでは4度以内、溝なしドラムでは2度以内になるように据付ける必要があります。

(2) ウインチ本体の据付
ウインチ本体の据付にあたって、特に注意することはつぎのとおりです。

ア)作業開始
①作業開始前に、据付作業関係者全員の参加による十分な打合せを行い、自分の役割を十分把握すること。
②事前に据付に必要な適切な工具・器具類などを用意し、これらを確認すること。
③事前に据付に必要な適切な玉掛け用具類を用意し、これを確認すること。
④ウインチを据付けるために、クレーン等でつりおろしの作業を行う場合は、特に玉掛け用具をかける位置に注意し、適切な所に正しくかけること。

イ)ウインチの芯出し
芯出し作業の目的は、ウインチが稼動中に最も良好な同芯状態を保つことにあります。したがって、一連の据付作業の中で最も重要な作業の一つで、十分な経験と高度な技術が必要です。現場等で大型ウインチなどの芯出し作業の場合は、メーカーの据付要領書または取扱説明書などにより、専門業者などによって行います。なお、芯出しは、位置・水平度・同心度・平行度・垂直度(直角度)をそれぞれの基準となる点または線に対して測定し、定められた位置・精度にセットしなければなりません。

ウ)グラウト作業
①基礎面をチッピングし十分に濡らすこと。
グラウト作業のポイントは、基礎面の入念なチッピングと十分に濡らすことにあります。濡らし方が不足するとグラウト剥離の原因となります。
②事前にアンカーホールのチェックをすること。
箱抜きアンカーボルトの場合、事前にアンカーホールの中に型枠材などの異物が残っていないか確認して施工します。施工不良があると、ウインチの稼動中に起こる繰返しの引張り荷重で基礎との分離が発生し、トラブルの原因となります。なお、据付はアンカーボルトで行い、アンカーを現場で施工する場合は、十分は大きさと強度が必要です。

(3) 電気機器・操作盤および配電盤などの配線
ウインチの電気機器・操作盤および配電盤などの配線(接続)作業は、電気主任技術者、電気工事士などの有資格者が行います。また、配線作業の補助作業は、これら有資格者の指揮の下で行わなければなりません。

配線作業にあたって、特に注意する事項は次のとおりです。

ア)適正な接地(アース)工事を実施すること。
接地(アース)は、一つには感電災害を防止するためであり、また電気回路に機器の破損や漏電火災を防ぐために役立つものであり、極めて重要です。

イ)接続(配線)電線に行き先を標示すること。
ウインチを点検・補修、修理などをするにあたって、スイッチの誤動作による災害、接続まちがいによる機械の破損、あるいはウインチの誤操作による災害などを防止するために、回路の確認が常に必要であり、行き先を標示しておくことが必要です。

ウ)ヒューズは所定容量のものを確実に取付けること。
所定容量のヒューズを使用しないと過負荷などで重大事故の原因になることがあります。

(4) その他
その他、ウインチの据付にあたり、特に注意する事項は、次のとおりです。

ア)オープンギヤなど回転部分には必ず覆いをつけること。
イ)ワイヤロープの内角など、危険な場所への立入りを禁止する囲い、標示などを設けること。
ウ)決められた合図・信号などは、常にウインチ運転者など関係者の目につきやすい場所に表示しておくこと。


2)ウインチ 運転前の心得

はじめに
ウインチ運転者の運転前の心得としては、まず現場のルール(規則)を守ることです。これが運転者の心構えの第一歩です。仕事を安全に進めるためには、ルールに従って行動することが重要で、服装もきちんと清潔にし、保護帽も必ずかぶり、安全靴などを着用し、心を引締めて作業を行います。

作業を行うにあたっては、運転者として次のことを心得ておかなければなりません。

(1) ウインチの点検・補修をすること。
使い慣れたウインチでも、作業にかかる前に毎日、点検・補修をすることが必要です。それが、一日の仕事や安全に大きな影響を与えます。余裕を持って仕事にかかることが必要です。

(2) 責任者の指示を受けること。
ウインチの点検・補修を行ったら、作業責任者に報告します。ウインチの能力や特性、使用する上での注意事項などを念のため、作業責任者との間で確認を交わすことが必要です。また、作業前に必ず作業指示書などを責任者から受け取って作業にかかることも必要です。

(3) ミーティングで確認すること。
朝礼、作業指示を受けたら作業の仲間とミーティングを行います。協同作業をする者同士で危険予知などを行い、安全作業の徹底を図ることが必要です。

(4) 指示内容をよく理解すること。
作業指示を受けるときは、最後まで内容をよく聞くことが必要です。内容がよくわからないときや、意見のあるときは、素直に質問や自分の意見を話すことが必要です。指示内容の要点を簡単に復唱してから作業を行うことが大切です。

3)ウインチ 運転時の注意点

はじめに
仕事には、やる気と真剣さが特に必要です。いい加減な態度やうっかり操作、乱暴な運転は、必ず悪い結果として事故の発生につながります。どのような場合でも、周囲の安全へ注意と集中力が必要です。遅いようでも一歩一歩確実に行うことが結果的には、作業の能率を高めることになります。あせらずに安全に作業を行うことが大切です。
(1) ウインチの運転方法
運転するウインチの取扱説明書、マニュアルなどを前もってよく読んで十分に理解し、注意事項を熟知しておくことが必要です。
(3) ウインチの運転にあたっての注意
ウインチの運転にあたって、特に注意する事項は次のとおりです。

ア)定格以上の荷重をかけないこと。
ウインチの能力は、フレームまたはベッドに取付けられた銘板に表示されています。規定能力は、あくまで規定のロープ速度での能力なので、必要以上にドラムにロープを巻きつけると、ウインチに対する負荷が増し、無理がかかります。

イ)半ブレーキは、連続して使用しないこと。
ブレーキホィールの温度が上昇し、ライニングの摩擦係数が低下し、ブレーキが効かなくなる恐れがあります。油圧式ウインチでは、油圧が異常に上がって故障の原因となる場合があります。

ウ)ワイヤロープが乱巻きにならないようにすること。

エ)運転中に急激にブレーキをかけることは、緊急時以外は避けること。

オ)電動式ウインチの運転にあたっては「下げ」からいきなり「上げ」の急激なスイッチの切替操作、押しボタンスイッチのインチングの多用は避けること。

カ)運転中は常にモーターやギヤーなどの音・振動、潤滑油温度、計器類などに注意し、異常があれば直ちに運転を停止し、点検・補修を行うこと。

キ)運転者は、操作中に持場を離れないこと。

ク)運転中には、つり荷の下や、ロープの内角範囲に人を立ち入らせないこと。

ケ)安全装置その他の部品を取外したままで運転しないこと。
ブレーキ装置、歯止め(爪)およびラチェット(爪車)、ギヤカバーなどは取外したまま運転してはなりません。

コ)運転は、信号・合図を定めて十分に確認してから行うこと。

4)ウインチ 運転後の心得

はじめに
ウインチ運転の終了後には、特に次の事項に注意しなければなりません。

(1)コントローラーハンドルまたは操作レバーなどのを停止の位置に戻して、メインスイッチおよび照明器具の各スイッチを切り、これらの事項を確認すること。

(2)電源盤内のメインスイッチまたはブレーカーを「切」にすること。

(3)安全装置などが確実に作動していることを確認すること。

(4)運転中気がかりであった点をはじめ、各部を注意して見回り、必要があれば責任者に報告すること。

(5)必要があれば給油しておくこと。

(6)引継ぎ事項を確認し、作業日誌または申送り簿などに記入を行うこと。特に注意を要する事項がある場合は、引継者に確実に申送ること。

5)ウインチの点検・補修

はじめに
ウインチに限らず、機械は日常の手入れが大切です。特に使用前には、必ず点検および補修を行う必要があります。点検には、作業開始前と定期の点検があり、作業開始前点検は、目視の点検と給油程度が目安ですが、定期点検は分解、掃除、目視・計測点検など広範囲にわたって実施する必要があります。

作業開始前点検
作業開始前点検は、その日の作業を開始する前や一時休止後の運転にあたって行うもので点検事項は以下の表のとおりです。

なお、この点検は、ウインチ運転者自身が行い、点検の結果、不良箇所のあるときは、直ちに責任者に報告し、不良箇所を取替えるなどの補修が必要です。運転者自身で補修・取替えのできないものは、専門の係員に依頼し、不調のままでは絶対に運転したはなりません。

▼(表)作業開始前点検事項
点検箇所 点検内容 判定基準
ブレーキおよび
クラッチ
作動・磨耗 効き具合が良好であること。
ライニング等に著しい磨耗がないこと。
歯止め 欠け、亀裂、磨耗 欠け、亀裂、磨耗のないこと。
巻込防止装置
または警報装置
作動または
標識の有無
作動が確実であること。
標識が明瞭であること。
軸受・歯車 給油の状態 給油の状態が良好であること。
ワイヤロープなど 巻込状態、
損傷
乱巻きでないこと
損傷がないこと
回転部のカバー 有無 十分なものであること
据付ボルトなど 取付け状態 緩みや脱落のないこと
コントローラー 作動 円滑であること
配線 損傷、
結線
電線の損傷・老化のないこと
結線が確実であること
ブレーカー 作動 確実であること

●上記内容は「ウインチ運転者必携」(厚生労働者労働基準局安全衛生部安全課監修 建設業労働災害防止協会発行)より抜粋、要約させていただきました。